「いらっしゃいませ^^」
遅いお昼休憩から いそいそと戻ってきた同僚が 元彼の背中に声を掛けたのでした。
瞬間 私は深い安堵感に包まれました。
良かった・・・。
怖かった・・・。
取合えず 元彼と2人きりでなくなったという安心感と 私の中の恐怖や怒りなどのドロドロした切羽詰った感情が和らいでいくのを感じて 泣きそうになるのを堪えながら 同僚の顔を縋る様に見ました。
瞬間、彼女が 一瞬の私のその表情を見逃さず 唯成らない雰囲気を読み取ったのが アイコンタクトで私にも伝わってきました。
いつもならロッカーにバッグをしまって 少しお化粧直しをして出てくるはずの彼女が カウンターの私の横にサッと入り込み カウンターの内側の床にバッグをポイっと無造作に置き
「休憩 上がりました。」
私に 笑顔でそう言いました。
あぁ・・・機転を利かせてくれたんだ!
「はい。」
私も ワザと同じトーンで返事を返しました。
私より一歩前へ出た同僚の横顔が 頼もしく感じました。
同僚の毅然とした綺麗な笑顔に 元彼が少し怯んだ様子が 表情から伺えました。
「あ・・・っと じゃ またの機会に連絡するよ・・・。じゃまた・・・。」
彼は オドオドとそう私に言い残すと 私が返事を返す間も無いまま 去っていきました。
「有難うございました〜。」
その後姿に 同僚が明るく挨拶を投げかけます。
直後
「は〜〜〜〜〜っ・・・!」
私は 安堵の溜息を付いて その場に突っ伏してしまったのでした。
良かった このタイミングで戻って来てくれて。
あのままだったら 私が彼を怒鳴るか何かして 彼を逆上させていたかもしれなかったし それか 強引にしつこく誘われていたかもしれなかった。
「大丈夫? ねぇ、あれって DV(ドメスティックバイオレンス)な元彼?だよね? 平気?」
同僚とは 元彼と付き合っていた頃に 彼とほんの数回 顔を合わせたことがあった。
「うん・・・ありがと〜。 ほんと怖くて泣きそうだった・・・。 助けてくれてありがと〜。」
「いやいや。 でも あの調子だとまたやって来そうだよ? 何かされそうなの? っていうか あれ? でも 浮気で出来た彼女が居んじゃなかったっけ? なんで今更 りらちゃんとこ来てんの?」
そりゃ 同僚が怪訝に思うのも無理は無い。
当の私だって困惑している。
「解んない。 食事に行かないかとか言われた。」
「はっ!? 彼女と終わったから またより戻したい的な!?」
「ん〜・・・よりがどうとかまでは言われてないけど 多分 今 彼女さんと上手く行ってない様子だから 以前 都合よく付き合えてた私に また都合よく近づこうとしてるんだろうなぁとは 思った。」
「うわぁ・・・。っで!? りらちゃんはどうすんの!?」
「っどうすんのって! 勿論 どうもしないよ! 自分がそうしてきた事とは言え もう懲り懲り! 同じ過ちは繰り返さない! 第一 彼には微塵も気持ちは残ってないもん。」
「だよね〜? あぁ 良かった。 あんな腫らした顔 二度と見たくないわぁ・・・。 あんな辛い思い 二度として欲しくないと思う。」
「うん・・・。」
彼に殴られた時 私の顔面は青紫に内出血し 目が半分に潰れるほどパンパンに腫上がってしまったが 当時 仕事が忙しく休暇も取れず 上司には 『転んでケガをした』と伝えて 翌日には 病院に行ったその足で出勤した。
が、まさかそんな腫れた顔で お客様の前に出る表の業務には出る訳にも行かず 当分腫れが落ち着くまでは裏方の仕事をする事になったので 一番迷惑を掛けることとなる同僚には 正直に こうなった経緯や自分の恥を全て打ち明けていたのでした。
「でも ヤバイんじゃない? さっきも言ったけど あれはまた りらちゃんに接触してくるつもりだね。 また きっと誘いに来るよ?」
「・・・だよね・・・?・・・どうしよ・・・?」
「ん〜・・・そうだな〜・・・。 今日みたいに仕事場とか来た時は 何とか私が上手い事やったげる。よし 私 暫くお弁当持ってくるし お昼は外出ないから 平気。 だから 誘われても しっかりきっぱりその気がないと断わる事!」
「うん。ごめ〜ん! そうしてくれると ほんと心強い〜。」
「でも 家とか来るかもだから・・・。 自分でも十分気を付けて?」
「う、うん・・・。」
それから 私は 自ら率先して残業したり 毎日のように友達の家に行ったり 実家に頻繁に帰ったりと 夜は 家に寝に帰るだけのような生活になってしまいました。
とうの昔に着信拒否にしているにも関わらず 私の携帯の番号を彼が知っていると思うと怖くて居ても経っても居られない気持ちになり 携帯も新しく換えてしまった。
元彼が あれだけで諦めるとは思わなかったし とにかく怖かったのだ。
もし 二人きりで口論になったりすれば きっとまた 酷い事を言われて もしかしたら殴られるかもしれない・・・怖い・・・。
二度とあんな惨めな思いはしたくなかったし 痛い思いもしたくなかった。
それに 元彼から離れることによって手に入れた 何にもに縛られず 自分で自分が思うように生きる生活と自由を 私は 手放すことは絶対したくなかったのでした。
そんな徹底した生活でしたが 元彼が仕事場や家にやってくることは無く 一ヶ月ほどが過ぎて行きました。
そうだ きっと 諦めてくれたのかもしれない。
思えば あの時 結構キツめには 断わった。
そう言えば 他のオンラインゲームにハマっていると言っていたし どうせ そのゲームに夢中になっているんだ。
もしかしたら 不仲だった彼女さんと また仲良く生活出来だしたのかもしれない。
元々 楽観的な性格の私が 自分の都合良く考えだすと あんなに憂鬱で重かった気持ちが どんどんと軽くなっていきました。
そして次第に 私の緊張もだんだん 緩くなっていったのでした。
その姿を見て 友達や同僚も安心したようで 「でも 気は抜かず 気を付けるんだよ?」 と注意は相変わらずしてくれるものの 私のガードは甘くなっていき 少しずつ 以前の生活に戻っていきました。
そうして ある日。
そういえば 最近PC(パソコン)覗いてないないなぁ〜。
ふと そう思ったのでした。
家にあまり居つかなかったこともありましたが いつもやっているネトゲにINすると もしかしたら 元彼がINしていて 接触をとって来るのではないかと思うと とてもじゃないですが ゲームをする気にはなれなかったのです。
そういう思いから ずっと自宅のPCには 触れずにいました。
私は久々に自宅のPCを立ち上げ 取合えずメールを覗いてみたのでした。
アンさんからのメールが何件か入っているのを見つけました。
『りらさん 元気にしてるかな? 皆心配してます。 勿論 俺も・゚・(´っω・。)・゚・』
『りらさん 仕事が忙しいのかな? 余裕が出来たら また皆でアソぼ (。・ω・。)ノ』
アンさんらしい文章のメールを見て 黙って長い間 INしなかった事を反省しました。
そして 最後のメールを開いたとき 私は 驚いてしまったのです。
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